第35話  科学者への希望の郵便 / The mail for Scientist

「なに!?暑中見舞いだと?馬鹿野郎!そんな物はいらん!!研究者はな、そいつの論文を読んでいれば、今何をしているのか、元気なのかは分かるんだ!」 「はあ、すみません」 「阿弖流為(アテルイと読む、私が付けられたあだ名)!こんな無駄な事で電話す…

第34話  悪循環 / Negative spiral

「先生、恋人はいますか?」 「お、定番だね。残念ながら、結婚しているよ。ちなみに年齢は想像に任せます」 無邪気な笑みの中に、10代後半の好奇心が潜む。そんな70個の瞳が私を見つめている。今の私なら、彼女達の「若さ」に少したじろぐかも知れない。で…

第33話 神々の警告 / Messenger of God.

釣りの極意は待つことにあるという。これは良く誤解されている。ただ待てば良い、ということではないのだ。魚がきちんと餌に食らいつき、ハリがかかるまで、ハリが口の中に入るのを待て、ということだ。人にメシ時があるのと同じく、魚にも飯の時間がある。…

第32話 ごめんなさいとブルキナベ / Oh, sorry.

「僕はもうすでに20カ国は旅して来ましたよ」 「へえ、それはすごいね。」 「いろんな国の色んな文化を肌で感じたいんですよ。」 年が明けて2011年(1人での年越しの侘しさは書きたくない)。 私は1人の日本人大学生と出会った。彼は海外旅行が趣味で、旅…

第31話 巷に雨の降るごとく我が心に涙降る / Il pleure dans mon coeur Comme il pleut sur la ville

「そのお皿、片付けてあげるよ?ムシュー」 「ん?そうか、ありがとう」 出張の途中、道ばたのマキ(簡易食堂みたいなもの)で食事をとっていた。メニューはリ・ソース、トマト味。こちらで一般的なトマトソースのぶっかけ飯だ。まあ、美味い所もあるが、大…

第30話 会議は踊る / Der Kongress tanzt

「ドクター?」 「ん?トイレだ。すぐ戻る。」 半分は嘘だ。トイレと称してタバコを吹かしに行くのだ。会議室は侃侃諤諤の様相を呈している。乾期の仕事のうちでも比較的重要なものがある。農閑期でもあるこのシーズンに普段は農作業やその他の仕事で忙しい人…

第29話 青い稲妻が私を攻める / parched earth

「グ、グハッ!」 「ドクター!?」 「大変だ、ドクターが血を・・・・」 騒然となるオフィスとスタッフ達。流し台には私が吐き出した赤茶色の液体が流れている。流しの前のガラス戸には勢い余ったしぶきが赤い点々になり付いている。突然気道に入り込んだこ…

第28話 こぼれ話 / But I digress

11月から12月にかけて、ブルキナファソは乾期の訪れと共に圃場での仕事が一段落する。もちろん、国立研究所内にはirrigation (灌漑施設)もあるから、乾期の作物栽培や実験が続けられている。しかし私にはその予定が無いから、専ら雨期のデータを取りまとめ…

第27話 熱砂視線 / Do you have an eye problem? Why are you grilling me?

「・・・・・・」 ヒソヒソ。ヒソヒソ。時に噛み殺した笑い声。 「・・・・・・・」 ヒソヒソ、ヒソヒソ。 ウンザリだ。やっと長い旅を終えて、ブルキナファソはサリア村に戻ってきた。旅の疲れはあるものの、たまった仕事を片付けねばならない。私の住居が…

第26話 故郷は遠きにありて思うもの/Much spends the traveller more than the abider.

「ヘイ、ジャポネ!こっちが安いよ!!」 「待て待て、うちの方が親切で安全だぞ!」 「ミスター、両替はいかが?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 ナイジェリアの出張が終わった後の某日、時刻は午前2時30分、私はセネガルのダカールにいた。パリ−ダ…

第25話 カゴのトリ / Caged bird

「Good morning Sir!!」 「ああ、おはよう。」 「Sir! Good day」 「やあ、いい天気だね」 博士の学位を取ってから初めて、「sir」の敬称で呼ばれた。ちょっと嬉しいけど、照れ臭い様な気もする。古い映画ファンならば、鬼教官のGunnery sergeant Hartmanを…

第24話  車、千里を駆ける / Chase!

Nigeria, ナイジェリア。西アフリカはギニア湾に面する連邦共和国で、産油国でもある。首都はアブジャ、最大都市はラゴスである。国名の由来はニジェール川(Niger)から来ており、お気づきの方もいるかも知れないが、隣国ニジェールとは読み方が違うだけで、…

第23話 2千年来の友達 / When one god deserts you, another will pick you up.

「ここに座れ。」 「・・・・・・・」 「フランス語がわからんのか?」 「・・・・・ああ」 「まったく、日本人てのはもっと温厚で礼儀正しいはずだろう?一体なにがあったのだ?」 「なあ、タバコ・・・・吸っても良いか?」 私はコートジボアール空港の空…

第22話 日本人科学者拘束 / Captive scientist

「動くな!おとなしくしろ!!」 「待て!離せ!!」 「うるさい、こっちへ来い!!」 「日本人舐めるなよ!国家権力なんぼのもんじゃ!!」 「なんだ!中国人じゃないのか?ええい、いいから大人しくしろ!!」 Cote d'Ivoire。アフリカ大陸西部、ギニア湾…

第21話 旅立ちに向けて3 / start on a journey3

ビチビチ。 顔に当たる砂塵が痛い。そして、狭い。言うのは悪いとは思うが、臭い。 フロントガラスが無い為に、道路に撒き上がる砂塵がすべて車内に突入してくる。しかもこれは「高速バス」だ。風圧が半端ではない。ドライバーはアホみたいにアクセルを踏み…

第20話 旅立ちに向けて2 / start on a journey2

「こちらはAir Burkinaです。お客様の予約されたフライトはありません。」 「・・・・・・・意味がわからん。」 「フランス語ができないのですか?」 「いや、それもあるが、なんでE-ticketを持ってるのにフライトが無いのだ?」 無事にナイジェリアのビザを…

第19話 旅立ちに向けて / start on a journey

「あ〜面倒くせ〜」 「?おいなんて言ったんだジャポネ?」 ここはブルキナファソにあるナイジェリア大使館だ。いや、正確に言うと、ナイジェリア大使館の敷地に入る為の入り口だ。私の所属する研究所はナイジェリアに本部があるのだが、この度、全体会議の…

第18話 学校の買い談 3 / In economics, you don't get something for nothing. 3

「さて、今日は皆さんに経済学の話しをしましょう」 農民学校の先生達に期待と不安が入り交じった視線が交わされる。自信がやや揺れる。四則演算以外の数学など知りもしない彼らに対し、経済学を説けるのか。私の意図は通じるのだろうか。そもそも私の「英語…

第17話 学校の買い談 2 / In economics, you don't get something for nothing. 2

「ようこそ、Trainer's training (先生の為の学校)へ、今日は我々とブルキナファソ国立研究所が誇る科学者達が皆さんにレクチャーをします。」 「皆さんはここで農業に関する様々な知識を学び、それぞれの村に帰ってから、農業学校の「先生」になるのです…

第16話 学校の買い談 1 / In economics, you don't get something for nothing. 1

「ドクター、各村共に順調に開花が見られますね。」 「そうだな。色々とトラブルがあったけど、とりあえずは一安心だ。だけど、まだほ場に「混ざり種」が見られるな。品種の見分け方を再指導して、混ざり種を除去しないとな。」 播種(種まき)から、農薬の…

第15話 あんた誰? / Uncle Sam.

「あ〜、またか!」 PCの電源が来ない。一瞬停電を想像するが、オフィスの電気はついている。なんの事は無い、延長ケーブルが壊れたのだ。アフリカでPC仕事をするなら、間違ってもデスクトップなどは買わない事だ。なぜなら、予期せぬ停電にいちいち電源が落…

第14話 恵まれし者 / Grace of God.

「それにしても、Saria村なんてところで良くご無事ですね?」 「首都ワガの"隊員"にマラリヤ患者が出まして、Saria村は大丈夫ですか?」 ブルキナファソ首都ワガドゥグゥーに支部を置く、日本の国際協力隊事務所 "GIKA" の職員の方と、たまたまワガで会った…

第13話 やっぱ嫌な奴 / A cat goes, ”Meow meow”.

「アロー? あ、はいもしもし、ええそうです。」 珍しく携帯に日本語で電話がかかった。ブルキナファソで行われる農学関連の国際シンポジウムにガーナ在住の日本人科学者が参加していた。事前に里村さんを通じて、可能ならブルキナで会えないかと打診を受け…

第12話 言い訳すんなって / He that is good for making excuse is seldom good for anything else.

「チーフ!そんなことは我々がします!止めてください!」 「えっ?別にいいじゃないか。誰がやっても同じだよ。」 鼻歌まじりにロバを操り、美しい畝をブルキナの大地に刻んで行く。結構、楽しい。 だが、それを見る農民達は皆驚きを隠さないし、スタッフも…

第11話 サリア村の休日 / Holiday in Saria

「ヴェ〜〜、ヴェ〜」 「うるさいなぁ、またアンバサダーの奴か?」 雨期の訪れとともに、ブルキナファソの村々では一気に農耕と植え付けが始まる。私の実験サイトがある村々も同様で、ブルキナについてからほとんどの日々を各村への出張に取られていた。今…

第10話 科学者として / I am a scientist

「日本のドクター、農機具が壊れてしまってね。30,000CFA(6千円)ほどで直るのだがね。」 「この間も、耕作用の農機具を直すと言って、同額を支払ったはずですよ」 正直、「またか」と思った。このPathiriと言う村は金に対して、少々ずる賢い。ただでさえ、新…

第9話 日本人なのにケチな奴 / Speak like a child

「ねぇ、日本人だろう?ちょっと頼むよ」 「・・・働け」 日本では禁止用語だろうが、ここブルキナでも乞食がいる。ストリートチルドレンもちらほらと見かける。彼らは(時に彼女らは)、日本人の私を見かけるとほぼ必ず声をかけてくる。首や肩から紐を下げ…

第8話  飯喰ったか? 2 / I'm hungry spider 2.

「先輩は虫が嫌いでしたよね?それでよくアフリカに行きますね」 後輩の倉沢は口の悪い女だ。と思った。尤も、口が悪いと言っても話し方が下品な訳ではない。ただ皮肉を言うタイミングが絶妙すぎて、そんな印象を与える。彼女のせいではないのだ。そうなった…

第7話 飯喰ったか?1 / I'm hungry spider1.

快適に眠れるはずだった。初めての海外赴任、到着からいきなりのホテル暮らしと地方への出張、道無き道を突き進む映画のような顛末。やっと改修が終わった我が家は家具一つなく土ぼこりに汚されていた。それでも、ホームがあるというのは違う。生活に安定感…

第6話  清廉潔白な人々と魔法の言葉 / The Burkina-be

「もう受付時間は終了しているんだ、明日にしろ」 私のパスポートのコピーを持った警察官は、ぞんざいにそう言うと、コピーをこちらに押しやって、「帰れ」と手を振った。しかし次の瞬間、手を返して、続けた。 「1000CFAで処理してやっても良いぞ」 未だに…